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彼女の左足が浮いて、体重が塀の外にかかる。ノートの端を掴んだ時には右足もつま先立ちで。
あ、落ちるよ。
僕の脳みそが囁いた。
落ちて、死んじゃうよ。僕のノートのせいで死ぬの?そんなくだらないことで。
僕のせいで死ぬの。
僕はまともに動いてくれない手足を適当に突き出して、彼女に掴みかかり、
倒れ込むように体重を後方に預けた。背中に本日二回目、冷えたコンクリートの感触。
引きずり降ろされた彼女も、したたかに体を打ちつけた。
「おいっ……」
彼女が混乱した声を出すのを聞きながら、僕はわりと迅速な行動をとれたことに安心していた。火事場の馬鹿力が、僕なんかにも備えてあるのだ。しばらくは動きたくない。
「――きか」
ん。
僕の足首を掴みながら彼女は呻いた。なんだろう、はずみで骨でも折れてしまったのだろうか。僕はのそりと上体を起こして様子を見た。
「殺す気かッ!」
ようやく聞き取れた言葉は明らかに僕への怒りで、
けれど彼女が今危機に瀕していることに関しては、僕はあんまり悪くないような気がした。
「違うよ。ごめん」
僕の心にもない謝罪をよそに、彼女は襲われていた。
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