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コンクリートの床に、半透明の黒いイソギンチャク状の触手が数本生えていて、
彼女に腕を伸ばしていた。触手の先は短い指のように裂けて、髪や肌を掴んでいる。
ちなみに、僕には目もくれていない。目は見当たらないけど。
僕は少々の驚きをもってその現象を眺めていた。
「その黒いの、僕の幻覚じゃなかったんだ……」
息も絶え絶えの彼女は、首に巻きつく触手を引きはがそうと奮闘しながら
僕を睨んでいた。
僕は思わず目をそらした。彼女の怒号が飛ぶ。
「違う、よな!」
「な、なに」
彼女の膝から下は、コンクリートに引きずり込まれていた。
「殺す気が、ないなら助けろよ!」
「助けてほしいなら、まず僕の足首を離して……起きられないよ」
「これ、しきも振り、ほどけないのか!」
「え、ええ?」
自由になった足をさすりながら僕は立ち上がる。
彼女は胸から上を残すのみになっている。
「いけるかなあ」
とりあえず両手を掴んで持ち上げてみた。ずり、と埋まっていた体が戻ってくる。
普通に重いけど、これは彼女の体重だろう。触手自体は不思議なほど抵抗感がない。
「塀に乗せろ」
「のせ……持ち上げるのは無理だから、自分でよじ登って」
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