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スイーツショップ「スイートDays」では2月14日のバレンタインデーになると必ず行われるイベントがある。
バレンタインの日に勇気を振り絞って告白し、そして無残にも失敗に終わった人のためのお疲れ様デー、「ビタースイート・デイ」が。
苦いコーヒーショコラを食べて失恋の味を噛み締め、果実フレーバーのコーヒーとミルクでブレンドしたミルクラテで悔し涙を洗い流すガス抜きイベントなのである。
ミルクラテに使うミルクは、客の体質に合わせて豆乳などに替えたりできるため、多くの客層からは人気がある。
また、乱暴狼藉に走らない限り、失恋の涙と心身に溜まり切った行き場の無い思いを吐露し、自分の傷ついた心を労わる事も許されている。
ショコラを口に含むたびにあふれ出す苦味とともに、かつての「初恋」をゆっくりと噛み締めていく。
大学に進学した頃、あるゼミに入った「私」は、なにかと声をかけて気遣ってくれる「彼」に心惹かれていくようになった。
自分の容姿にはそれなりに悪くないし、恥を掻きたくないために化粧やオシャレだってとても気を遣っている。
それなのに、以前から気になっていた「彼」が「私」ではなく他の見知らぬ「女」の手を取った場面を目の当たりにしてしまった。
可愛らしい容姿の「女」が苦心しながら用意したであろう手作りチョコと告白を嬉しそうに受け取ったのである。
初恋の思い出に反芻するように心臓に刃物が突き立てられ、そこから焼けるような痛みと悔しさが胸を満たしていき、自然と大粒の涙が両目から流れ落ちた。
勝負に挑むことさえ許されなかった敗北の苦味を、柔らかいミルクラテの甘さが優しく背を撫でるように口の中を綺麗に流し去っていく。
取り乱して大きな声で泣きわめく事は出来ないけれど、行き場への無い「彼」への思いに区切りをつけるべく、今は静かに泣いてしまおう。
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