一章~日替わり定食と酒と愚痴~

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ほら!と斜め後ろの方を振り向いて指を指す堺さんの視線を辿ると一番奥の席でスーツを着た見るからに若い男性が両手で頭を抱えていた。 20代半ばくらいだろうか… 来店時から注文品は生ビールのみで一向に料理の注文が入らないので内心気になってはいたのだ。 この店にはお酒も置いてあるものの種類は麦酒と日本酒だけ。 そもそも定食がメインの小料理屋なので呑み目的で来るお客さんは滅多にいない。 「お客さん、どうかなさいましたか? 体調優れない時はおっしゃって下さいね」 こういう時はお客さんの気が動転するといけないので至って冷静に対応をする。 坂月の問い掛けにゆっくりと頭を上げた彼は虚ろな目をしていて、返事をする代わりに小さく頷き会釈をした。 然程酔っている様子はないが空きっ腹にアルコールだけでは身体に良くないだろうと心配した坂月は困ったなぁ…と眉を顰めた。 まだ半分程残っている麦酒のジョッキを横目にお冷やを差し出してさり気無く彼からジョッキを遠ざけた。 「ちょっと待っていて下さいね」
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