一章~日替わり定食と酒と愚痴~

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一章~日替わり定食と酒と愚痴~

沸々と熱しられた油が跳ねる音と共にトントンと軽快なリズムで根菜類が刻まれていく包丁の音が狭い店内に響き渡る。 厨房の中からカウンター越しに店内の様子を伺いながら唐揚げ用にと仕込んでおいた醤油漬けの鶏肉に片栗粉をまぶす。続いて中火で熱した油の中に素早く入れていき数分間を空けてから蓮根や南瓜などの根菜類を素揚げして仕上げに煮詰めた和風の甘酢餡を絡めて出来上がり。 トレイに大盛の御飯、具沢山のお味噌汁、鶏肉と根菜の甘酢餡かけ、小鉢に入ったほうれん草のおひたしを乗せてカウンター席に丁寧に差し出した。 「お待ちどうさまです。今日の日替わり定食になります」 目の前の男性にぺこりと軽く頭を下げて会釈をしていつもの如く品の良い笑顔を浮かべる。 「お、今日も美味そうだね」 此処の日替わり定食だけが私の最近の楽しみだよ…とどこか寂しげに苦笑しながら呟く男性は坂月がこの店を継ぐ前からの常連さんだ。     
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