二章~手抜き飯と角煮定食~

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二章~手抜き飯と角煮定食~

耳元で繰り返すスマホの目覚まし音に眉を顰めた坂月は、手探りで携帯を掴み取り無造作に停止させた。 時刻はAM6:00 朝が弱い坂月は毎日5時頃から15分置きに大音量で流れるようにセットをしている。 片手を口元に添え軽く欠伸をして目を擦り、重い瞼をこじ開ける。 そしてごろりと寝返りを打とうと身体を捻ると何か硬いものに衝突した。朦朧(もうろう)とした意識の中でその何かに視線を向けるとそこには昨夜まで確かに離れた場所に布団を敷いて寝ていた筈の咲真の姿があった。 そして1人用の敷布団の7割ほどの範囲を占領されていて、通りで自身の肩が布団から若干はみ出している訳だと納得する。 如何してこんな状況になっているのか今すぐにでも問い質したいのだが、早く起こして身支度を整えさせなければ会社に遅刻してしまうのではないか。坂月の焦りとは裏腹に綺麗な寝息をたてている彼を心配して一気に布団を捲り上げた。 「な、な、何で…」 此方に背を向けた状態で眠っている咲真の上半身は裸で、坂月が昨晩貸した寝巻き用のシャツが床に脱ぎ捨てられていた。 昨晩何かの間違いで如何わしい事でもしてしまったのではないか、と慌てて自身の身体を見下ろした。けれど上下共しっかりと寝巻きを纏っていて乱れた様子もなく、坂月は安堵でホッと息を吐いて肩を落とした。 そもそも幾ら独り身で寂しいからと言って、男同士で傷を舐め合う様な真似をする筈がないじゃないか。坂月自身そういった生き方に偏見がある訳では無いが、実際に今まで交際してきた相手は皆女性で、男性に特別な感情を抱いた事など一度もないのだから。 きっと彼だって同じだ。上手くいっていないにしても現に付き合っている女性がいるのだから、間違えても同性の三十路のおじさんに好意を抱いたりしないだろうと頭の中で思考を整理させた。 そうだ、きっと何もない。 彼が寝ぼけて無意識のうちに布団に入り込んでしまっただけ。そして寝苦しくてシャツを脱いだだけだ。と心の中で自分自身に何度も言い聞かせた。 「おはようございます坂月さん。どうしたんですか難しい顔して」
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