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一つの牛車に私と娘と息子、そしてそれぞれの乳母たちを乗せて、摂津から京に帰るための行列を作った。
行きは良かった。「摂津守の北の方」として、何も案ずることはなかった。チラチラと外を伺い、豊かな、穏やかな国だと思ったのは昨日のように思われるのに。
しかし、帰りは違う。
全財産も持って移動しているのだ。
摂津守が亡くなり、残された北の方が子どもたちを連れて京に戻ろうとしているのである。
荷物を運んできてくれている人たちは、摂津の介が好意でつけてくれたような人たちで、追い剥ぎにでもあえば、そのまま逃げてしまうだろう。
牛車の中で私は不安だらけだった。
しかし、その不安を外に出してしまうと、子どもたちが怯える。ただでさえ、乳母たちが怯えた顔をしているというのに。母親まで怯えていれば、どうなるだろうか。ほぼ一日かけるが、一日で八条の棟世の館に戻るつもりだ。蓬生の宿になっているだろうか。
夏で良かった。真っ暗になる前に、京に戻れるのではないかと思う。
牛車が急に止まった。
耳をすませばどっどっどっどと、馬の足音がする。
ああ。追い剥ぎに捕まってしまうのだろうか。
「お方さま」牛童が私に言った。
「どんな連中がいるの?」
「派手な連中です」
別れた則光も、兄も、それなりに名の通った武人である。
兄の名を出すのも、まして則光の名を出して通じるような相手だろうか。
一騎だけが近くに寄ってくる音がする。
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