日なたの礼品

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 次の日の朝。部屋から外を眺めると窓の外側にバッタが置いてあった。 「お返しのつもりかな?そうだ、だったら私も」  昨日買った猫の餌の残りがまだ有った為、それを窓の外側に置いておいた。  今日も出かける。都心に出てきてかれこれ半年が過ぎようとしていた。  仕事も見つからず知り合いも居ない。ずっと田舎に戻るか考えていた矢先の出来事だった。  子猫が迷い込み、ずっと荒みそうだった心が元に戻った様であった。  職探しをしながら、コンビニのアルバイトを続ける日々。  勿論、アルバイトが悪い訳でも嫌な訳でも無かったが、就職しなければ田舎を飛び出し此処に来た意味が無い。 「さてさて、今日も頑張りますか」  アルバイトが終われば、職業安定所に向かう単調な日々。やり甲斐も無ければ未来も無い。  そんな事を考える毎日であった為、子猫の訪問はまさに突然の変調だった。  置いていた餌は毎回無くなっていた。家の中に入って来る事は無かったが返礼品の品も毎日届いた。  友達が出来たような感覚だった。知り合いすらいない土地で子猫と言う名の隣人を得た私は此処に来た当初の目的と想いを思い出した。  やりたい仕事が有った。ずっと諦めていた仕事である。 「もう一度目指すか」  そう呟いた瞬間。もう一度自分の夢に向かう気力が戻っていった。
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