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勇者の誕生
「この奥に魔王がいるのか…」
目の前に広がる巨大な扉。神からの祝福を得た少年は、その前に立っていた。
過酷な旅だった。少年は、世界のためなどという大層な理由ではなく、あくまで個人的な理由で魔王に挑もうとしていた。そのため仲間を求めず、独りで戦ってきた。
少年は静かに眼を閉じ、深呼吸をする。自分の戦う理由を改めて胸に刻み込む。
――決意は固まった。
扉の先に、魔王は待っていた。
その姿は、言い伝えられているような山のように大きく醜い姿ではなく、少年とあまり変わらない体格だった。龍の頭骨を被っているため顔は見えない。そして、その身体から漏れ出す魔力は尋常でなかった。
少年は雄叫びをあげると剣を強く握り、魔王のもとへと駆け出す。魔王はそんな少年の様子など意に介さず、ゆっくりと手を上げる。
『それ』を避けられたのは奇跡だった。
少年は本能的に床に伏せた。次の瞬間、少年の頭があった空間が急速に収縮し、爆発した。少年は一瞬呆気にとられたが、急いで立ち上がる。
―そんな少年の腹部を爆発が捉えた。
少年が膝から崩れ落ちる。口から、腹部から血が吹き出す。眼から急速に光が失われていく。誰が見ても、もう戦える状態ではなかった。
そんな状況で少年が考えていたのは、先ほど胸に刻み込んでいた戦う理由と、幼き日の思い出だった。
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