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女の子がいじめられていた。
幼き少年は、己の未熟な正義に命じられるまま、女の子を助けようとした。しかし少年は非力だった。当然、女の子を守るだけの力を持っておらず、ボロ雑巾のようになった少年と泣く女の子が残される。そんな日々が続いた。
「いつか、魔王も倒せるほど強くなって勇者になりたい。」
少年は女の子を守れず、痛めつけられるたびに泣きながら口癖のようにそう言った。
―そうすれば、君を守ることができるから。
少年の眼に光が戻る。全身が痛む。それでも女の子を守れなかった、あの時の胸の痛みよりはマシだった。無力感に全身を打ちのめされる、あの時の痛みよりはマシだった。
それは端から見れば無謀以外の何物でもなかった。魔王の発する爆発の中を、少年は魔王に向かって突っ走る。爆発を受けて、服は破け、耳はちぎれ、指は飛ぶ。しかし、少年はもう止まらない。
女の子が一度だけみせた、可愛らしい笑顔。
少年の目には、もうそれだけしか映っていなかった。その笑顔を守りたいからここまで来たのだ。その笑顔を守りたいから今まで独りで戦ってきたのだ。
ある日、女の子は急にいなくなってしまった。それでも少年の決意は変わらなかった。どこかで生きているのなら、勇者になって迎えに行こう。そしてまたあの笑顔を見せてもらおう。
少年は女の子の名前を叫びながら…
魔王の胸へと剣を突き立てた。
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