勇者の誕生

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 女の子がいじめられていた。  幼き少年は、己の未熟な正義に命じられるまま、女の子を助けようとした。しかし少年は非力だった。当然、女の子を守るだけの力を持っておらず、ボロ雑巾のようになった少年と泣く女の子が残される。そんな日々が続いた。 「いつか、魔王も倒せるほど強くなって勇者になりたい。」 少年は女の子を守れず、痛めつけられるたびに泣きながら口癖のようにそう言った。 ―そうすれば、君を守ることができるから。  少年の眼に光が戻る。全身が痛む。それでも女の子を守れなかった、あの時の胸の痛みよりはマシだった。無力感に全身を打ちのめされる、あの時の痛みよりはマシだった。  それは端から見れば無謀以外の何物でもなかった。魔王の発する爆発の中を、少年は魔王に向かって突っ走る。爆発を受けて、服は破け、耳はちぎれ、指は飛ぶ。しかし、少年はもう止まらない。  女の子が一度だけみせた、可愛らしい笑顔。  少年の目には、もうそれだけしか映っていなかった。その笑顔を守りたいからここまで来たのだ。その笑顔を守りたいから今まで独りで戦ってきたのだ。  ある日、女の子は急にいなくなってしまった。それでも少年の決意は変わらなかった。どこかで生きているのなら、勇者になって迎えに行こう。そしてまたあの笑顔を見せてもらおう。  少年は女の子の名前を叫びながら…  魔王の胸へと剣を突き立てた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!