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糸が切れたように画面が暗くなった。
モニターに反射する老けた男の顔は、脂肪と吹き出物に塗れ、嘘みたいに醜い。
一呼吸おいて、男は声にもならない叫び声を上げた。反射的に体も仰け反り、デスクチェアから大きな躯体がこぼれ出て尻餅をついてしまう。その衝撃によって、散乱するカップ麺の容器からゴキブリが羽ばたいた。
なぜこうなったか原因は男にはわからない。だがしかし、それが意味することには気付いてしまう。
それは男にとって生の否定、この世の崩壊そのものであった。
落ち着け、落ち着けと震える声で自分を諭すも冷や汗は止まるどころか加速していく一方だ。
一体いつだ?いつセーブをした?
頭を抱えるがセーブ画面を思い起こせない。それもそのはず、オンラインゲームが人生となった男にとって「ゲームを時中断する」という発想がなかったのだから。
何でこんな目に、と涙を目に溜めながら叫ぶ男には、モニターが突然落ちた原因はついぞわからなかった。
男が知る由も無い原因は、単純にブレーカーが落ちたから。
つい先程、爆音と共に近所に落ちた雷がその地域一帯の電気回線を麻痺させたのだ。
やがて、共に住む母親がブレーカーをあげ、男の部屋に再び電気が灯った。
画面を確認するとつい先程までの場面。データは消えていなかった。
ああよかったと涙し歓喜する男は冗談でなく本当に命拾いをしたと感じている。
画面では、本当の自分が威風堂々と仲間達に話しかけていた。
「旅はまだ始まったばかりですぞ!」
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