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食堂を出て右を向くと、調理場の壁が続いていた。廊下からも入れるのだろう。入り口が一つある。
その前を通り過ぎていくと、男、女と入り口の別れた浴場が、顔を出した。ひょっこり覗くと、脱衣所がある。
中には使用した形跡があった。エルサさんは、ここでシャワーを浴びていたのだろう。
しかし、今は用がない。夜になったら来ることにしよう。そう決めて、わたしはその場を後にする。
突き当たりには風呂場しかなかったので、くるりと踵を返した。
食堂の前まで戻り、右に折れて。並んでいるトイレや書斎、応接室をそれぞれ覗いて、階段の前まで戻ってきた。
目の前には、玄関へと続くホール。階段の横を通ると、リビングに娯楽室らしき部屋があった。廊下の突き当たり奥には、物置だけがある。
少し戻って玄関を背に立ち、頭上を見上げた。天井は、遥か上――そこは、吹き抜けになっていた。
おそらく、昨夜覗いた場所だろう。わたしは今、ブラックホールの中にいるようだ。
他に、部屋はない。目の前には、壁だけが続いている。
どうやら、一階にある部屋は、これですべてのようだ。
わたしは一度、玄関から外へ出てみることにした。
「庭だ……」
扉を開けると、広がっていたのは庭だった。
青い空に、眩しい太陽。爽やかな風が、とても気持ちいい。
しかし残念なことに、花壇には雑草が生えていた。手入れがされているようには、見受けられない。
部屋や食堂を見る限り、管理の行き届いている館に見えたのだが……。
とはいえ、雑草類はすぐに生えてくる。完璧すぎても、息が詰まるというものか。
そう勝手に納得をして。わたしは、花壇から視線を前方へずらす。
庭の向こうには、門が見えた。きっちりと閉じられた門を正面に、左側には駐車場だろう――車と、大型バイクが一台ずつ停められていた。
くるりと振り返る。外から館を見上げると、情緒溢れる二階建ての、正方形の形をした洋館がそこにあった。
わたしも、旅行でここに来たのだろうか……十八ということは、学生だろうか。連れとは、本当に恋人なのだろうか。
二人で、旅行に……果たして、そうなのだろうか。
もし、わたしが先に着いていたのならば、そのひとはいつ来るのだろう。
いや、もしかしたら別の部屋に泊まっていて、今頃わたしのことを捜しているのかもしれない。
わたしは、再び建物の中へと足を踏み入れた。
「下は地下、かな……」
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