失われた記憶

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 吹き抜けを背にまっすぐ歩いた突き当たりが、あの二人の宿泊している部屋だ。  その隣は、わたしの泊まっている部屋。  そして―― 「隣に、まだ部屋がある……」  わたしの部屋を挟むようにして、一つ。同じ造りだろう。客室があった。  扉の前に立って、ノックをする。  またもや返事はない。  わたしは、そっとドアノブに手を掛けた。  と、カチャリ。今度は抵抗感など一切なく、わたしの体は室内に招かれた。 「……誰も、いない?」  整然とした、一見すると綺麗な部屋。使われている形跡はない。  なにしろ、うっすらと埃が積もっていたからだ。  どうやら、ここはただの空き部屋らしい。  それにしても、館の主人は余程慌てて旅行へ行ったようだ。最低限の掃除だけを済ませて、使われる予定のない場所はこうして放置されているのだから。 「使われてもないのか……」  ここにいるのでは……なんて、少し期待した自分がいた。そのぶん、肩が落ちる。  開かなかった一部屋が気になるが、これで二階はすべて見て回ったことになる。  さて、どうしようか……。 「地下も見てみようかな」  もしかしたら、地下にも部屋があるかもしれない。  勝手に侵入してはならない箇所ならば、そのように注意書きがあるだろう。  行くだけ行ってみよう。どうせ時間はあるのだし。  そんな淡い期待を抱いて、わたしは元来た道を戻る。  階段を下りていき、一階。そして、地下へ向かった。 「……そうだよね」  下り立った瞬間、私の期待は泡となり、儚く消えた。  奥に行くまでもなく、わかった。  この階に、部屋はない。  それでも、ここまで来たのだからと言い聞かせ、わたしは足を進めた。  地下にあったのは、物置の空間とボイラー室。それから、電気室だった。  コの字型の廊下には、他に何もない。  仕方なく、わたしは階段を上り、二階へと戻った。 「あの部屋のこと、何か知ってるかな……」  開かなかった部屋を思い浮かべる。  聞いてみよう。そう思い、二人の部屋の扉をノックした。 「……いないのかな?」  もう一度ノックをしてみる。だが、返事はない。  用があると言っていたし、きっと二人も旅行か何かで来たのだろう。ずっと部屋にいることもないか。 「また、後で聞いてみよう」  しかし、どうしたものか。一通り、館は見て回った。  だが、連れに関することは何も得られなかった。  ただ、館のどこにどういった部屋があるのかを把握したに過ぎない。  荷物の中には、時間を潰せそうな物はなかったし、まだ昼も遠い。
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