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「え――」
「あたしらを油断させるため……とか?」
「そんな……セナさん、どうして……」
「ち、違……本当に、わたし――」
「んな顔で言われたって、説得力ねえよ」
蔑みの視線――なのに、わたしの口角は上がったままだ。
どうして……どうして、こんなことに……。
良くしてもらったひとたちに誤解されて、疑われて、睨まれて、距離を取られて。
あんなものを、見たというのに。
わたしの表情は、恍惚に染まっている――
「あーあ。ったく、すっかり騙されちまった」
「本当ですね……噂の正体。そのものご本人だったのならば、あのような小芝居は無意味でしたのに……」
噂に芝居って……いったい何のことなのだろうか。
言いながら、二人ともが俯いてしまう。
どうしよう……嫌われたか。はたまた、呆れられたか。いや、そんな生易しいものじゃない。
いったいどうしたら、この誤解は解けるのだろう。
わたしが動けずにいると、ゆらり。
エルサさんが、俯けていた顔を上げた。
「ったく、最初っから言っといてくれよ。そしたらさあ、無駄な時間使うことなかったんだからよお……なあ――あんたが噂の、猟奇殺人犯なんだろ?」
「え――?」
「もう良いのですよ、知らない振りは。幼稚なごっこ遊びは、止めにしましょう? だって、この館を真っ赤に染め上げたのですから――それが、何よりの証ですよね」
このひとたちは、何を言っているんだろうか。
二人の様子が、おかしい。
先程までの、わたしを軽蔑するかのようなそれとも、また違う。
――彼らは、豹変していた。
「なあ。いっつもそうやって館に来たやつらを騙して、バラバラのぐちゃぐちゃにしてんのか?」
「そうなのですか? さすが、噂をご自身で流されるだけありますね。相当な自己顕示欲の持ち主とお見受けします……満たされないのですね。そうして、繰り返すのですね。ねえ、どうですか? 今もその頭の中は、ボクたちのことを切り裂く妄想でいっぱいなのでしょう?」
「やった時さあ、どうだったんだよ。やっぱり今みてえに笑ってたのか? 愉しかったのか? なあ、どんな気分だったんだよ」
「それで、いったい何を使われたのですか? 処理は、どうされたのですか? もったいぶらずに聞かせてください。是非、教えてくださいよ」
「な、何のことを言って――わたしが、殺人犯?」
愕然と目の前の二人を見る。
またもや脳内で警鐘が鳴り響いていた。
きっと、いや確実に。
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