277人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
自分が傷つくことに腹を立てていた、エルサさん。
自分やエルサさんにならともかく、他のひとに殺されたくないと言っていたトーリくん。
わたしを最後まで騙し、偽っていた、おかしなひとたち。
自らの快楽を追い求めるためならば、他者を平気で傷つけるひとたち。
それでも――
「死んで良かったなんて、思わない……」
体内の血を撒き散らして。こうして望まない形で、死を迎える――
これは、自業自得なのかもしれない。
だけど、やるせない。
二人を思うと、どうしてもそう考えてしまう。
館の主人も。おそらく、その家族たちも。
たくさん並んだ首の持ち主は皆、殺されるに値する理由があったのか。
それとも――
「ふふ、ふふふふふ……」
他人を傷つけて喜んでいた、サディズムのエルサさんのように。
自傷行為に快感を得る、タナトフィリアのトーリくんのように。
血を見ると興奮してしまう、ヘマトフィリアのわたしのように。
ひとを殺して、恍惚に染まる笑みを浮かべているこのひとも。
自らの快楽のために、こんなことをしているのか……。
「おそらく、エロトフォノフィリアだ」
「エロトフォノフィリア?」
「殺人性愛……殺人や殺害行為に興奮するパラフィリアだ。遺体損壊に快楽を得る人間もいる」
「殺害行為に……」
わたしの血どころの話じゃない――ひとを殺すことが楽しいというのか。
「欲望のままの殺戮――それだけのために、何人もの命が……」
「アラン……」
ぎりりと歯噛みし、笑みを浮かべている女を睨むその横顔は、まるで憎悪――暗い怒りの炎が、見え隠れしていた。
ねえ、アランは探し物をしているって言っていたけれど、それって「物」なの? それとも、まさか……。
あの首の中に、知っているひとでもいたりするの――?
「ふふ……エルサさんの首も、さっさと切らなきゃ。時間が経って手こずると、綺麗に切れなくなるかもしれないし」
うっとりと呟いて、亡霊は、ゆらり。エルサさんの体へ、向かおうとする。
しかし、それをアランが阻んだ。
まるで、今までわたしたちのことなど視界に入っていなかったかのように、男の動きに驚く黒マント。瞬間、邪魔をされたことに怒ったか――舌打ちが聞こえた。
「何? 貴方たちも後でちゃんと殺してあげるから、ちょっと待っててよ」
放たれたのは、苛々している口調。そんなにコレクションが大事なのか。
「聞きたいことがある。お前は、エロトフォノフィリアか。だからこいつらも、この洋館の主も殺したのか」
最初のコメントを投稿しよう!