277人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
「考えてたの、私。キーツをずっと、ずーっと永遠に私のものにするためには、どうしたらいいか。ずっと前から、考えてたの。悪い虫からキーツを守るためには、どうすればいい? 何もかもから引き剥がし、繋いで、閉じ込めておけばいいのかな? でも、キーツには友達もたくさんいるから、私以外の人間のことも考えてしまうでしょ? それじゃ違う。それじゃあ、私のものになったって言わない」
「まさか――」
「だから、決めたの……この私のユートピアで、永遠に他なんて見えないようにしようって。だから、殺しちゃった」
まるで、無垢なこどものように、にこりと。
亡霊は、そう平然と言ってのけた。
「どうして……」
「どうして? 何もかも、お前のせいだろ」
「え?」
わたしのせい……どうして……。
そうわたしが戸惑っていると、亡霊はおもむろに被っていたフードをぱさりと脱いで、その相貌をわたしたちの眼前に晒した。
その顔は――
「お前たち……まさか――」
声だけじゃない――現れた顔は、わたしと瓜二つだった。
「同じ、顔……?」
「当たり前でしょ。だって私たち、双子なんだから。ね、お姉ちゃん」
にこり、笑って。
亡霊は、驚くわたしに向かって、そう言った。
◆◆◆
――あれ、どうしたの? 珍しいね。帰って来てたんだ。え? キーツが呼んでる? わかった、教えてくれてありがとう。そういえば、どこか旅行にでも行くの? キャリーバッグなんて持って。わたしたち? そうだよ。今から旅行に行くの。誰から聞いたの? 恥ずかしいから、茶化さないでよ。じゃあ、キーツのとこに行ってくるね。またね、セナ。
「うっ……」
頭が割れるように痛む。
亡霊の、猟奇殺人犯の顔を見て。
わたしと同じ相貌の、双子だと名乗る女の言葉に、頭痛とともに蘇る記憶があった。
目の前の黒マントを睨む。
「セナ……あなたってひとは――!」
隣に立つ男の、驚く気配がした。
しかし、構ってなどいられない。
そう――わたしは、セナじゃない。
あの二人から呼ばれた時にしっくりこなかったのは、そのせいだ。
記憶を失っているのも、確かだった。
だけど、エルサさんのことも、トーリくんのことも。
そして、この館のことを覚えていなかったのは、当たり前だ。
わたしは、記憶を失う以前だってあの二人には会っていないし、この館になんて来たことはなかったのだから。
「記憶が戻ったの? ショック療法ってやつかなあ?」
くすりと嘲りを含んだ笑みを浮かべて、セナ――双子の妹は、わたしを見た。
最初のコメントを投稿しよう!