捜索

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 あなたはそんな顔もできるのかと。新たな表情に、きゅうっと……そんな音が、どこからか聞こえた気がした。 「俺はこっちを探す。見落としたら許さないからな」 「わ、わかった……」  くるりと背を向けて、真剣に探し始めるアラン。その横顔を、ちらと盗み見る。  この気持ちは、何だろう。  まさか――いや、違う。  だって、これはキーツへと抱くものとは、まったく違うもの。  全然似てもいない。  キーツは、わたしのもの。  わたしだけを見ていてくれなきゃ嫌だ。  誰にも渡さない。  だから、早く見つけなきゃ。  奪われたキーツを、取り戻さないと。  待っててね。絶対、迎えに行くから――  そうして、しばらく応接室内、書斎をそれぞれ調べてみた。  しかし、成果は上がらなかった。 「ないね……」 「どこにあるんだ……」 「意外と、リビングとか」 「……見に行ってみるか」  可能性は当たろうというスタンスで、わたしたちはリビングを捜索する。  しかし、思うような結果は出なかった。 「ないものなのかな……」 「いや。どこかに保管されているはずだが……」 「保管……」  保管がされているとするならば、どこが考えられるだろうか。 「書庫を見てみよう」 「書庫?」 「そこになければ、しらみつぶし作戦に移ろう」 「それは作戦でも何でもないがな」  くすりと笑って、同意してくれた男とともに、二階へ向かう。  緊張か興奮か。いつもなら既に眠りに就いている時間だというのに、まったく睡魔に襲われることはなかった。  今のわたしが。記憶のないわたしが起こされた、あのサイレンが鳴り響いてから、もうすぐ二十二時間が経とうとしていた。 「さぼるなよ」  書庫を提案したのは、確かにわたしだけれど。  大量の書物を前に、早くも挫けそうになっていた。 「わかってる……」  むっとして、言葉を返す。  この中から探すのか……そう思って、気が引けていただけだ。  手を抜くつもりは、毛頭ない。  ――とはいえ。  本の中に挟まっているということも、ないだろう。  わたしは、資料が保管されているような場所を探した。 「この辺りかな……」  ファイルが並んでいる箇所を見つけた。  スッと一冊を手に取って、パラパラと捲ってみる。  どうやら、館の主人には応援しているチームがあるようだ。  サッカー関連の記事がファイリングされていた。  すべてがそうなのか……そう思い、取り出しては中を確認する。  その中で、一冊の古いファイルを見つけた。  他の物と比べて、厚みは薄い。  わたしは、丹念にパラパラと捲った。
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