隠された部屋

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「……イエス。ま、それだけじゃないけどね」 「何故この場を選んだ? 無関係な主一家を殺したのは、何故だ!」 「何、お兄さんってば、関係者? 知ってどうするわけ? もうすぐ死ぬのに」 「俺は、真実を知るためにここへ来た」 「ふうん……まあいいや。冥途の土産って言うの? 特別に教えてあげる」  亡霊は、斜に構えて腰に手を当てている。  自身の武勇伝でも語るつもりか、やけに上機嫌だ。 「私は、私のために。快楽のために、この眠れる森の赤い館を作り上げた。森に囲まれて、街からは遠い、静かな場所。滅多に人も来ない、穴場――ここは、ちょうど良かった」 「ちょうど良かった、だと?」  アランの顔が、更に険しくなる。  そんな視線もどこ吹く風か。女は構わず、話し続けた。 「そう、ちょうど良い場所だと思った。だから、ここに決めた。でも一番の原因は、二人が旅行先に選んだから」 「え?」  戸惑いの声を上げると、ぎろり。  フードの隙間から見えた片目が、わたしを睨んでいた。 「二人って……旅行先って……」  もしかして、わたしとキーツのことを言っているの?  このひと、まさか、わたしたち二人の知り合いなの? 「お前だよ。お前とキーツが、二人きりで旅行に行くと。そんな計画を、楽しそうに。嬉しそうに、立てていやがるから……!」  激高。女は、だんだんと声を荒げていく。 「だから、ぶち壊してやろうと思ったんだよ! 二人が恋人になった? 旅行に行く? そんなの認めない。絶対に許さない! キーツは騙されているんだ。優しくて、断れない性格だから。人が良いから。だから、仕方なく付き合っているんだ。そうに決まってる。そんなのキーツが可哀想。だから、奪ってやるんだ。真実を伝えて、私がキーツの目を覚まさせなきゃならない! そう決めた!」 「何を言って……」 「旅行先だって言ってたこの洋館へ先に来て、何もかもを実行するに相応しい場所だと思った。ここしかない。二人が選んだこの場所で、絶対に仲を引き裂いてやる。繋がりを断ってやる。キーツを奪ってやるって決めたんだ。それに、私の理想郷を作るのにも、ちょうど良い。ここは、私の夢が叶う場所。人殺しができるところで、ずっとキーツと一緒にいるの。なんて、ユートピア……!」  語りながら興奮している黒マント。その息は、荒い。
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