277人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
「……イエス。ま、それだけじゃないけどね」
「何故この場を選んだ? 無関係な主一家を殺したのは、何故だ!」
「何、お兄さんってば、関係者? 知ってどうするわけ? もうすぐ死ぬのに」
「俺は、真実を知るためにここへ来た」
「ふうん……まあいいや。冥途の土産って言うの? 特別に教えてあげる」
亡霊は、斜に構えて腰に手を当てている。
自身の武勇伝でも語るつもりか、やけに上機嫌だ。
「私は、私のために。快楽のために、この眠れる森の赤い館を作り上げた。森に囲まれて、街からは遠い、静かな場所。滅多に人も来ない、穴場――ここは、ちょうど良かった」
「ちょうど良かった、だと?」
アランの顔が、更に険しくなる。
そんな視線もどこ吹く風か。女は構わず、話し続けた。
「そう、ちょうど良い場所だと思った。だから、ここに決めた。でも一番の原因は、二人が旅行先に選んだから」
「え?」
戸惑いの声を上げると、ぎろり。
フードの隙間から見えた片目が、わたしを睨んでいた。
「二人って……旅行先って……」
もしかして、わたしとキーツのことを言っているの?
このひと、まさか、わたしたち二人の知り合いなの?
「お前だよ。お前とキーツが、二人きりで旅行に行くと。そんな計画を、楽しそうに。嬉しそうに、立てていやがるから……!」
激高。女は、だんだんと声を荒げていく。
「だから、ぶち壊してやろうと思ったんだよ! 二人が恋人になった? 旅行に行く? そんなの認めない。絶対に許さない! キーツは騙されているんだ。優しくて、断れない性格だから。人が良いから。だから、仕方なく付き合っているんだ。そうに決まってる。そんなのキーツが可哀想。だから、奪ってやるんだ。真実を伝えて、私がキーツの目を覚まさせなきゃならない! そう決めた!」
「何を言って……」
「旅行先だって言ってたこの洋館へ先に来て、何もかもを実行するに相応しい場所だと思った。ここしかない。二人が選んだこの場所で、絶対に仲を引き裂いてやる。繋がりを断ってやる。キーツを奪ってやるって決めたんだ。それに、私の理想郷を作るのにも、ちょうど良い。ここは、私の夢が叶う場所。人殺しができるところで、ずっとキーツと一緒にいるの。なんて、ユートピア……!」
語りながら興奮している黒マント。その息は、荒い。
最初のコメントを投稿しよう!