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 放課後、ぼくは隣の隣の隣のクラスの女の子、エリグチさんに廊下で呼び止められた。 「おいしそうに食べていた、彼?」とエリグチさんはクールに言った。 「うん。とっても」とぼくは答えた。 「そう」 「他の女の子3人はうっとりとその様子を見ていた。戦争も起きなかった。邪悪なものは静まった。とりあえずは、だけど」とぼくは付け足した。 「そんなことは聞いていない」  ぼくは小さく肩をすぼめてみせた。余計なことは言うものじゃない。ほんとうはもう少しエリグチさんと話しをしてみたかった。でもこれ以上、彼女が何か話すようには見えなかった。クールなのだ、とても。そして謎が多い。 「あなたにもチョコレートを上げるわ」とエリグチさんが言った。「巻き込んでしまったお詫びに」  エリグチさんはちゃんとラッピングされた箱をぼくにくれた。 「詫びチョコ」とぼくは言った。 「苦い青春が詰まっている」とエリグチさんは言った。 「これからどうするつもり?」 「そんなのわからないわ。流れしだいよ」  そう言うとエリグチさんはぼくに背を向けて歩き出した。  流れしだい。感動的な誘導。チョコレートを作っているつもりが、別のものになっているように。  箱の中身は、開けてからのお楽しみだった。
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