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 アカヌマさんはポケットから折り畳まれた紙を取り出し、広げてぼくに渡した。雑誌のあるページを白黒コピーしたものだった。いちばん上には「ガトーショコラ」と書かれていて横には完成図の写真があった。材料の一覧があり、作る手順が載っていた。ガトーショコラのレシピだ。でもぼくの目の前には肉じゃががある。 「この通りに作ったら肉じゃがができたの?」とぼくは訊ねた。 「よく読んでみて」  ぼくは白黒のレシピをよく読んでみた。一番最初からゆっくりと。何か違和感があった。読んでいるうちにくらくらしてきてぼくは軽く頭を振った。それからまた読みはじめた。何かがおかしい。レシピには何かが練り込まれていて、頭には何かが刷り込まれていく。直感的にぼくは読み飛ばして手順の最後の行を見てみた。「煮る」という単語があった。何を煮込んだらガトーショコラになるのだろうか。 「わかった?」とアカヌマさんが訊ねた。 「巧妙に隠されているけれど、これはガトーショコラと見せかけた肉じゃがのレシピだ」とぼくは言った。  アカヌマさんはうなずいた。「丁寧にラッピングの仕方まで載っているの。ガトーショコラを作っているつもりで肉じゃがを作ってしまい、気がつかないうちにラッピングしてしまう。さっき偶然レシピが目に入ってこの中に入っているのは肉じゃがだって気がついたの。そうじゃなかったらいまごろわたしは、バレンタインに肉じゃがを贈っていたところだった」 「巧妙だ。非常に」ぼくはレシピを眺めながら言った。  感動的な誘導だった。この技術があれば世界を支配できる。 「うん」とアカヌマさんが言った。「それでね、探偵さんにはこれを仕掛けた犯人を探してほしいの」
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