プロローグ

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 プロローグ 「ていうか、柴田。来月じゃねえの? お前が親父になるの。お前が親父……。かーっ、世も末だ。で、男の子? 女の子?」。  トラックがバスに衝突し、そのフロントがバス側面に突き刺さっていた。  通路の所々が押し潰しされ、突入・制圧を困難にしている。  最も深く抉られた前方部で、ポイントマン(先頭隊員)の柴田と距離が離れる。  その姿が、視界から一瞬消える。  向こう側の状況を視認した瞬間、北条の全てが静止した。  柴田の首に、出刃包丁が深々と突き刺さっていた。  スローモーションのように崩れ落ちる柴田。  北条はサブマシンガン・MP5Aを放り出し、押し潰された通路に、無理矢理体を捻じ込んだ。  崩れ落ちる柴田の体をしっかりと抱き止める。  背中に「SAT」と刻まれた防弾チョッキがこすれ合う。  柴田が何か言いたげだったので、北条は耳を柴田の口元に持っていった。  柴田は声を振り絞り、北条に短く伝えた。それが、柴田の遺言となった。  バス前方に目をやった。  この場に、最も不似合いなものを見た。それは少女の、細くて白い透明なうなじ。  そのすぐ隣に、この場に最も相応しいものを見た。  邪悪なもの。本当に本当に邪悪なもの。  それは――少年だった。  青白い顔を人血で朱に染め、嬉々とした笑顔を浮かべていた。  北条は柴田の体を丁寧にシートに預け、タクティカルベストのホルスターから、拳銃・ベレッタを抜いた。  後方から、他のSAT隊員達の怒声が聞こえたような気がした。  だが、北条は空っぽだった。  銃口をゆっくりと邪悪の塊――十代半ば程の少年に向けた。  後方の隊員の一人――真田が同じ動作を行ったようだ。  北条と真田のベレッタの引き金が引かれる。  暗闇に支配されたトンネル内に閃光が走る――マズルフラッシュ。
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