キミと私

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詐欺師にしては胡散臭さを感じないし、ドッキリだとすれば華があるのは仕掛人だけでターゲットが地味すぎるし… そんなことばかり考えて返事をするまでかなりの時間を要したけれど、今あのときに戻れたら私は私に言ってあげたい。 目の前にいる柊を見れば疑う気持ちなんて何処かに飛んでいくよって。 それくらい、真剣な顔で告白してくれたんだ。 「このサンドイッチとメロンパン、杏が作ったの?」 「うん。そうだよ」 「また腕上げたね。すごく美味しい」 「ほんとに?嬉しい」 柊は思ったままを口にする人で、発する言葉には嘘も偽りもない。 だからこそ、素直に嬉しいと思える。 常連さんで、うちの店の味をよく知っている人だから尚更。 「そういえば俺、杏がパン作ってるとこまだ見たことないかも」 「柊が来る時間帯は売場にいることが多いから」 店を改装した時、厨房は全面ガラス張りにした。 お客様がパンを作る工程を一から見ることができる点と、厨房から店内を見渡せる点。 この二つが大きなメリットだ。 見られていると思ったら余計に気が引き締まって集中できるから自然と作業効率も上がる。正に一石二鳥といえるだろう。
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