キミと私

6/20
254人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
うちは先祖代々から続いている老舗ベーカリーだ。 子供の頃から焼き立てのパンの香りに包まれて育った私は高校卒業後、当然のように家業を手伝うようになった。 だが、問題は山積みだった。 去年、創業100周年を迎えた節目の年に母が突然家から出て行ってしまったのだ。 去り際の捨て台詞は、たしか… ああ、そうそう。 『こんな古臭い店、もうやってられっかバカヤロー!!』 うん、こんな感じだったと思う。 職人気質で頑固な父を結婚当初から支え続け店を切り盛りしていた母だが、正直うちの店は時代遅れ感が半端じゃなかった。 巷ではお化けベーカリーと噂されるほど老朽化した店の外観はレトロを通り越してオンボロだし、昔ながらの和やかな雰囲気とは掛け離れていて全く人が集まらなかったのだ。 それでも毎日仕込みのために朝早くから作業を開始しなければならないし、頭の固い頑固親父の相手までしなければいけない。 そんな生活に匙を投げたくなったのだろう。 結局そのまま二人は離婚してしまったけれど、誰も母を責めることはできなかった。 因みに母はすこぶる元気で、時々うちの店にパンを買いに来る図太い神経の持ち主である。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!