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「これ……うけとってください!」
もじもじと背中の後ろに回していた手が、目の前に差し出される。
世の中はおりしもバレンタインだ。
その手の上にあるものも、チョコかと思ったら……。
黒光りする光沢を放つ、つるつるに磨かれた泥団子だった。
「ごめいわくかともおもったのですが、どうしても、きもちをつたえたくて」
目の前の幼きレディー、朽木 愛理(くちき あいり)ちゃんは、たどたどしくもやけに気遣いにあふれたセリフで、手の上の泥団子をずぃと押し出す。
「ありがとう」
僕はそれを心からの笑みで受け取った。
「ハルくん、愛理ちゃん。そろそろ暗くなってきたから、中で遊びなさい」
直美さんがベランダを少し開けて、中から呼びかけてくる。
「はーい! いこう、ハルくん」
「え、でもコレ……」
今、渡されたばかりの光沢を放つ泥団子をもってうろたえる。
「ハルくん、しょせんはおままごとなの。もったいないのはわかるけど、またつくってあげるから。ポイしなさい」
「あ、ハイ」
5歳児に諭され、僕は手の中の泥団子をそっと砂場に戻した。
「ハルくん、おすなあそびをしたあとは、ちゃんとてをあらうんだよ?」
「さすがは愛理ちゃん、偉いね」
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