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はぁ...。
吐く息が、白い。
暖冬だなんだって、テレビで言っていた気はするが、冬はやっぱり、寒い。
寒さでかじかむ手を擦り合わせて、お椀のように形作ったその手の中央に、息を吐いた。
この間までは手袋をしていたが、気付いたら、片方だけなくなっていた。多分、どこかで落としたのだろう。毎年のことだ。俺はどうやら、そそっかしい上に、学習能力もないらしい。
「皮瀬、先輩。」
そのまま歩いていると、ふいに女子が目の前に現れた。
先輩、と呼んでくるから、おそらく下級生なのだろう。ふわふわしてそうな癖のある茶色い髪には親近感を覚えるが、あいにく、その顔に見覚えはない。
「あの、よかったら、これ...受け取ってくださいっ。」
突き出されたのは、俺でも知ってるほど有名なブランドのチョコレートの箱。かけられた赤いリボンは、文句のつけようのないほど、端整に結ばれていた。
そうだ。今日は、二月十四日。
女子が好いた男子に、想いを込めたチョコレートを手渡せる日だ。
目の前の女子は、顔を上げてくれない。表情はうかがえなくても、震える手から、その心中は、容易に想像できる。鈍い俺でも。
「ごめん。」
目の前の震える手が、ピタリと止まる。
「俺、そういうのは、受け取れねぇんだ。」
淡々と告げる。それぐらいに、俺にとっては、言い慣れてしまった台詞。
目の前の女子は、顔を上げない。
箱を持つ手が、力なく下げられる。
「...はい。」
か細い声でそう呟くと、女子はさっと身を翻し、走って俺の前から去って行った。
「はぁ...。」
吐く息が、白い。
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