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 キッチンで女が不気味な笑みを浮かべ、ボウルのなかの黒い物体をゆっくりかきまぜている。 「苦労したけど、もうすぐ完成ね」 テーブルの上でスマホがバイブで震えている。「一時はどうなるかと思いました」とスマホ。しゃべった。続けて、 「ついにオーナーと私の望みも叶う、というワケですね」と嬉しそう。 「そうよ。これであいつの大事なものを掴む」  スマホはちょっと考えてから言った。 「なぜキンタマを」 「バカッ胃袋よッ。信じらんないッ。聖なるバレンタインに、なんでそういう下品な発想になるワケッ? 本当にAIは最新? じつは型落ち? ううん、ちっさいおっさんが入ってるかもしれない! ロマンスのかけらもないわ!」  するとスマホは音量を最大にして叫ぶ。お言葉ですけどね、ロマンスのかけらもないのは人間のほうですよ! 「どうしてよ」 「発情期をむかえたメスが求愛にチョコ渡すんですよ? 非常食にもなるような高カロリー食を食べさせて、その夜メスはオスになにさせるんです?」 ほーらね、正解はキンタマだ。そう言うスマホに彼女はチョップを入れる。 「黙らないと機種変するわよ」 「ひどい! 話が違う!」  話は今から二週間ほど前にさかのぼる。     
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