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ちんどん屋のように電子音をかきならすスマホを片手に、彼女はのしのしとケータイショップにむかっていた。
「謝りますから、それだけはやめてえ!」
「だめッ。もう我慢できない、機種変よッ」
「しょうがないじゃないですかあ! 私そういう仕様なんだし。重要な着信だったかもしれないじゃないですか」
「あんたホントに最新のAIなワケ? あのタイミングでふつう着信鳴らす? もっと空気読みなさいよッ。あのときだって、ひょっとしたらプロポーズされるかもしれなかった」
「ハハハそれはありえませんね。オーナーは彼氏に炊事洗濯まかっせきり。私なら絶対結婚したくないタイプ」
「なんですって!」
「クチがすべりました!」
彼女には同棲二年目の彼氏がいた。久々の素敵なディナーだった。帰りにロマンチックな雰囲気にあわせてキスしようとしたのだが、スマホが大音量で能天気な着信音を轟かせたものだから、すっかり白けてしまったのだ。これまでもそういうことがしょっちゅうあった。
「あいつとあたし、いま微妙な時期なの。次のステップに進むのも、ハイさようならともなり得るの。そんなこともわからないようじゃだめ。機種変する」
「そんなあ!」
そのとき彼女は、目先の通りで、彼氏が知らない女と談笑しながらスイッと通り過ぎるのをみてしまった。
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