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その直後、噴水からゴボッと音がした。足元を見てみると、浅い水場が人の顔の形に盛り上がっていた。
「うおっ!?」
「最後の頼みだ。お前の持っている私の欠片を口に突っ込んでくれ」
確かに顔型のそれには口のようにぽっかりと穴が開いてる箇所がある。
言われた通り、包みから取り出した四角いチョコのようなものを落とす。
それは、すぐに溶けるように消えた。
「これで終わり?」
「いや、まだだあ!受け取ってぇ!!」
左のほうから誰かの叫ぶ声がして、反射的に振り向くと、頭に何かが当たった。
落ちているそれを拾う。
「それは私の体だ。早く口に入れてくれ!」
返事をするより早く、包みから出したものを彼に与えた。
その瞬間、左の方から獣の咆哮が聞こえ、今度こそ、その光景を見た。
「あ、あの人!」
遠くの方で両足を持ってきた男性とライオンのように大きな怪物が戦っていた。
「あれってまさか、あんたが言ってた・・・」
「敵性種だ。だが、ありがとう君のおかげで彼を助けられる」
隣から、安堵の声がした。
そして、怪物は一瞬にして吹き飛んだ。
驚いて隣の彼を見る。そこには完璧な人型となった彼が立っていた。
「君には本当に世話になったね。ありがとう」
「元に戻ったんだ」
「まだ不完全だがね。すぐに完全な人間に擬態できるようになる」
「いやー、助かった。死ぬかと思ったよ」
男が駆け寄ってくる。相当苦戦したのか衣服が所々破けている。
「これからどうするの?」
「旅行期間はとっくに過ぎてるから、星に戻ることになるだろう。残念だ」
「そっか、じゃあ餞別をやろう。口開けて」
大人しく従った彼の口にチョコボールを放り込んだ。
「これは・・・うまいな」
「俺はあんまり好きじゃないけど。そこらへんで売ってんだぜこれ。また来た時に食べるといいよ」
「そうか、覚えておこう」
男がズボンのポケットからライターのようなものを取り出す。
「ありがとう。本当に世話になったよ。お礼はそのうち」
そういって、男がライターを着火する。
するとまばゆい光が起こり、それに飲まれるように二人は消えた。
そして、待っていたと言わんばかりに人々が広場にぞくぞくとあふれ出す。
一人残された俺は、空の菓子箱を握り締めて踵を返した。
「さあ、帰るか」
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