私の嫌いな女

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 私には嫌いな女がいる。  名前は信子。信じる子と書いて、のぶこ。年齢は私よりみっつ上の48歳だ。  私が彼女と出会ったのは、お互いに20代の頃で、まだ携帯もそんなに普及していない時代だ。その頃の私はパソコンを使って『メル友』を作るのにはまっていて、信子ともネットを通じて知り合った。  アイドルのT君が好きで、周りには一緒にコンサートに行ってくれる友達がいなかったから、そういう相手が見つかればいいと思ってメル友を募集したところ、信子がそれに食いついてきたというわけだ。  最初は楽しかった。メールを交換するうちに信子が割と近くに住んでいることが判明し、私達は日時を決めて待ち合わせをし、喫茶店で何時間もアイドル談義に興じた。  何年かそうやって信子とは話の合う趣味の合う友人として付き合っていたが、さすがに30歳を越えるとアイドルに対する興味も徐々に薄れ、コンサートに行くのも億劫になってしまい、自然と信子とは疎遠になっていった。  アイドルが嫌いになったわけではなかったし、テレビで彼らを観るのは日課のようなものだった。完全に興味をなくしたわけではなかったが、やはり段々と『おばさん』にはついていけない世界になっていって、ついていけないと嘆きながら頑張るのではなく、おばさんはついてこなくていい世界なのだと私は思ったのだ。
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