私の嫌いな女

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 私は信子が密かに夢小説なるものに夢中になっていたことも知っている。アイドルとの疑似恋愛小説。若い男に抱かれるのを夢みていたであろう信子の願望を、私は現実のものに変えたのだ。 「幸せそうでいいわね」 「あら、信子のおかげじゃない。信子が賢ちゃんを生んでくれたから、私は彼と出会えたんだし」  ここだけの話だが、賢二は信子を毛嫌いしている。いい年こいてアイドルの追っかけをやっている母親を賢二はずっと恥ずかしく思ってきたらしい。だから30を過ぎてからアイドルの追っかけを卒業した私のことを、賢明だと言って褒めてもくれる。 「賢ちゃんが私にとってのアイドルみたいなものだから、信子には本当に感謝してる」  信子は気付いているだろうか。  たったみっつしか違わないのに、信子の髪には白髪が混じってパサパサと乾き、私の髪は艶やかな黒髪だということに。信子の肌はくすんでシワが目立つのに、私の肌はパンと張ってみずみずしいことに。  おばさんだという自覚をもって、ヘアケアもスキンケアも若い頃の何倍も頑張ってきた。スタイルが崩れないようにジムにだって通った。  おばさんは汚いのだ。若い女の子がおじさんを汚いもの扱いするように、若い男の子から見ればおばさんは汚いのだ。  それにちゃんと気付いて努力をし、身の程をわきまえて謙虚に振る舞う。それが出来る私と出来なかった信子。どっちが幸せかなんて比べるまでもない。
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