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ここら一体は家賃が安い分、頭のおかしい住人が多いからその中の誰かだろうか。
もしかしたら十五年ほど前に別れた元夫かもしれない。あいつはしばらくしつこく付き纏っていたから。
いいや、遠くに嫁いだ娘だろう。反抗的で私を逆恨みするような子供だった。それとも今の夫が他所でトラブルを起こして来たのか。
まさか私が追い出したパート先のあの女か?
温子の頭の中にたくさんの憎たらしい顔が浮かんでは消える。ほんの少し家を出るのが遅れたことにも苛々が止まらない。
元来怒りっぽい質ではあったが、更年期のおかげか怒りの沸点は随分と低くなっていた。
荒々しい運転でパート先のショッピングセンターに向かい、従業員出入口に駆け込んだ。パート仲間に愚痴ってやろう。きっと今朝の手紙はあの女がやったに違いないから。
温子が事務所に入ると事務員が「山岸さん大変よ!」と近寄って来た。
「どうしました?」
「実はフードコートの田中さん、昨日の帰りに事故に遭っちゃったみたいなの」
「ええっ、田中さんが?」
温子の担当部署であるフードコートは常に人手が不足していた。フードコートといえども地方の小さなショッピングセンターの中にある寂れた食堂だ。
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