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おかえし
パートに行こうと古びたドアノブに手をかけた温子は、ドアポストにささった封筒を見つけ立ち止まった。
いつもなら帰ってから見ればいいかと気にもとめずパートへ向かうのだが、家賃や税金の滞納を知らせる封筒とも、光熱費のハガキとも違う真っ白な封筒に言い知れぬ不安を抱いたのだ。
さっと抜き取ってみると、差出人は書かれていない。
新手のダイレクトメールだろうか?
温子は手荒れでカサついた指先で封筒を乱暴に開けた。
中には折り畳まれた便箋が入っており、それが手紙であるということを示していた。
朝直接誰かが手紙を投函したわけだ。
温子は瞬間的にカッとなった。嫌がらせか?鬱陶しい。
手紙を開くと中にはこう記されていた。
『今日はホワイトデーです。今日一日、我々がお返し致します』
手書きの文字でたったそれだけ。意味のわからない文章に温子の苛立ちはピークを迎える。
「はぁ?気持ち悪い!」
温子は大きな独り言を呟いて手紙をビリビリと力いっぱい破いてから丸めた。
見て損した。この忙しい時に余計なことを。
台所のゴミ袋の方へくしゃくしゃの紙の塊を放り投げてから乱雑にドアを開けた。
車に乗り込んでからあれは誰の仕業かひたすら考えていた。
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