崩れた瞬間

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 視線を横にずらすと、無造作に投げ出されたショートパンツから伸びる筋肉質な長い脚が見えて、心臓がドクンッと跳ねた。  いつの間に、そんなに背が高くなったんだろう……  昔は、私の方が高かったのに。  力だって、私の方が強くて喧嘩も負けたことなかったのに。  いつから太一は、私に喧嘩をふっかけなくなったんだっけ?  白いシャツから仄かに汗に混じった太一の匂いを感じて、鼻が擽ったくなる。  もう、覚えてしまった太一の匂い。何に混じってても分かってしまう。 「美祢子(みやこ)ぉ、頼むよ。なっ!」  昔よりも遥かに低く響く、太一の声に鼓動が速くなる。  う、うわっ……なにこれ。まるで、私が太一が好きみたいじゃん。  や、やだ。キョドってたら、絶対からかわれるに決まってるし!  いつものように、笑わなくちゃ。意識しちゃ、ダメ……  けど、いつものように太一に笑いかけようとしても口角が引き攣ってピクピクする。  あ、あれ……私って、いつもどうやって笑ってたんだっけ。 『いつもの笑顔』が思い出せない。太一をまともに見られない。  うわー、どうしよ……  なるべく自然に見えるように意識しながら、体をゆっくりと太一から背けた。
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