黒板消し

5/5
前へ
/5ページ
次へ
「なにそれ、聞いたことねぇ」  あ、笑った……  間近で見た吉田くんの笑顔は、モールで見たときよりももっともっと輝いて見えた。 「ほ、ほんとに言われてるの! お、女の子はそういうこと気にするんだから……」  吉田くんとの初めて交わしたまともな会話が『便秘』とか恥ずかしくて、頭が混乱しながらも、冗談で言ったと思われたくなくて必死に弁解した。 「そっか、ごめん。  ちっこいなって思ったら、思わずやりたくなって」  吉田くんが、そんなこと思ってやるなんて、少し前までは想像すら出来なかった。もっと、私の知らない吉田くんを知りたくなる。 「今度、黒板消すときは俺に声かけろよ」  吉田くんはそう言って、立ち去っていった。  ねぇ、吉田くん。  黒板消す以外でも……声かけて、いいかな?    彼の背中から、目を逸らせないでいる私がいた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加