黒板消し

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 身長差30センチの彼と黒板に挟まれて、見動き出来ない。彼の長い腕が伸び、私の頭越しに凄まじい文字の羅列を消していく。  チョークの粉が落ちてきて、白い粉が舞い散って。もし他の男子にそれをされたら『迷惑だから!』って怒ってすぐにどくのに、この距離から動けないでいる。    吉田くんの『正しい』男子学生そのものの匂いが学生服から漂ってきて、胸がキュンと縮まる。  黒板を消す度に腕と一緒に揺さぶられる体が、微妙に背中に当たる。私の心臓は、ネジを巻き過ぎてしまったオルゴールのように超高速で音を奏でていた。  吉田くんは少しずつ横へ移動し、私の側を離れていった。私は黒板に真摯に向き合うその真剣な眼差しを、アホみたいにボーッと見つめていた。 「はい」  ふと気がつくと、吉田くんに黒板消しを渡された。私の届かない上だけじゃなく、一面全て綺麗になっている。 「あ、ありがとう!……ござい、ました」  慌てて黒板消しを受け取ってお辞儀すると、頭のてっぺんを人差し指でツンとされた。 「ちょっ! 便秘になるからやめてよ!!」  思わず顔を上げて素に戻って叫んだ私に、吉田くんがプーッと吹き出した。
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