15人が本棚に入れています
本棚に追加
身長差30センチの彼と黒板に挟まれて、見動き出来ない。彼の長い腕が伸び、私の頭越しに凄まじい文字の羅列を消していく。
チョークの粉が落ちてきて、白い粉が舞い散って。もし他の男子にそれをされたら『迷惑だから!』って怒ってすぐにどくのに、この距離から動けないでいる。
吉田くんの『正しい』男子学生そのものの匂いが学生服から漂ってきて、胸がキュンと縮まる。
黒板を消す度に腕と一緒に揺さぶられる体が、微妙に背中に当たる。私の心臓は、ネジを巻き過ぎてしまったオルゴールのように超高速で音を奏でていた。
吉田くんは少しずつ横へ移動し、私の側を離れていった。私は黒板に真摯に向き合うその真剣な眼差しを、アホみたいにボーッと見つめていた。
「はい」
ふと気がつくと、吉田くんに黒板消しを渡された。私の届かない上だけじゃなく、一面全て綺麗になっている。
「あ、ありがとう!……ござい、ました」
慌てて黒板消しを受け取ってお辞儀すると、頭のてっぺんを人差し指でツンとされた。
「ちょっ! 便秘になるからやめてよ!!」
思わず顔を上げて素に戻って叫んだ私に、吉田くんがプーッと吹き出した。
最初のコメントを投稿しよう!