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「はぁ……またか」
目の前に吊るされた赤い紙を睨みながら、私はため息をつく。
今日は7月5日。明後日に迫った七夕に備えるべく、私の住んでいる町内では短冊の準備が行われていた。
すでに大きな竹いっぱいには、願い事が書かれた紙が吊るされている。丸文字で書かれた平仮名やきっちりと整えられた漢字まで、その行事の盛大さを物語るのにはふさわしい。
だがその行事を、台無しにしようとする輩がいるのだ。しかも、私のものだけ。
黒く塗りつぶされた願い事を取り出して、もう一回書き直す。
これでもう五回目だ…。
「家族が健康でありますように……と」
思い浮かばずありきたりなものだが、私の中では大切なそれ。いっそ「イタズラが無くなりますように」とでも書こうとしたが、もしそれが当日に飾られたら虚しすぎる。
「…………あれ?」
今度はどこに飾ろうかと見渡していると 、ふと目に入った人影に気づく。
この町内はそんなに人が多いわけでもないが、そんなに少ないわけでもない。
普段なら人影なんて大して気にもしないのに、なぜかそれだけは妙に目で追ってしまう。
「………へぇ~」
その理由がなんとなく分かった気がして、私は嫌らしい笑みを浮かべた。そしてすぐに置かれたテーブルから新しい短冊をもらうと、急いでペンを走らせた。
・・・
後日、7月6日。
私はいつも通り、笹が立っているその場所に足を運んでいた。みんなで楽しむ行事だからそこまで無理しなくてもいい……と言う人もいるだろうが、根が真面目な私はどうしてもちゃんとしたいと思ってしまう。
……決してプライドが許さない訳ではない。
普段と違って、高いところにも葉っぱの裏にも吊るしていない短冊はすぐに見つかった。ドキドキしながらも、少し背伸びをしてそれを手に取る。
ーー短冊には、一切イタズラされていなかった。
「やった!」
大袈裟に跳ねて喜びを表現する。まさかここまで上手くいくと、なんだか面白くなって息が上がった。
今までイタズラしてきた犯人……それが一体誰なのか。よくよく考えれば簡単だった。
昨日見た人影が着ていたパーカー、見慣れたあまりにも濃い筆圧。なんで気がつかなかったのだろう。
……それにしても、ちゃんと見てくれただろうか。
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