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三.もう好きと…
会場から少し離れた土手沿いに、二人は並んで腰を下ろした。ここまで離れると人も少なく、落ち着いて花火を鑑賞することが出来る。一つ問題があるとすれば、この辺りはちゃんと管理されていないのか、伸び放題の雑草で鬱蒼としていることだった。
「穴場だね、ここ」
「蚊にさされそうだな……」
「虫除けしてくるの忘れた~!」
そう言いながら二人は、目の前を飛び回る小さな虫の影を忙しなく手で追い払った。しかしそんな煩わしさも、次々に夜空へと打ちあがる光の華によって、些細なことに変わっていく。
「あの青い光、私好きだなぁ……」
「あぁ、綺麗だよな」
そう言いながらも逢坂は、隣でキラキラとした光を反射させた彼女の横顔を見つめていた。
(何とも思って無かったんだけどなぁ……)
渋谷の進学する大学を知った時、一瞬だけ僅かな焦燥感に駆られたのを今でも覚えている。しかし彼女の連絡先は知っていたし、地元に戻ってくればまたいつでも会えるモノだと信じて疑わなかったので、現にまたこうして会えているのを思えば、大した問題では無いと思っていた。
「どうしたの? じっと見て」
「いや、大学生活どうなのかなぁと思って。大阪の大学だっけ?」
「別に……まぁまぁって感じだけど。どうしたの急に?」
「いやぁ、何となく……」
(じゃあ何でそんな急に大人っぽくなったんだよ……)
「そっちこそどうなの?」
「何が?」
「東京で彼女でも出来た?」
「いないよそんなん! いたら今頃彼女と花火見てるっつーの」
「でも木村君とつるんでるんでしょ? 可愛い女の子寄って来そうじゃん」
「全員俺なんかスルーだよ…てか、言わせんなよ!」
あははと笑う渋谷。その笑顔をまた、いろんな色の光が照らす。
(この夏が終われば……俺達はまた別々の場所へ戻るんだよな……)
高校三年間のように、寝て起きればまた嫌でも顔をつき合わせる…というわけにはいかない。
「渋谷は……彼氏いるのか?」
「え……」
ドーーン!
一際大きな花火が打ち上がって、胸の鼓動がドクリと疼いたのは、花火の爆音のせいなのかそれとも逢坂の質問のせいなのか。
「いないに…決まってんじゃん……言わせんなよ」
最後の方は消え入りそうな声だった。彼女は顔を見られないようにそっぽを向いたが、若干尖らせた口の先だけが見えている。
(無意識なのか? それ)
何だか叫び出したいような衝動に駆られた。そうでもしないと、思わず彼女に抱きついてしまいそうだった。
もう隠せないところまで来たのだと逢坂は悟った。先程無意識に佐藤の申し出を断ったのも、隠しようのない気持ちの表れだったのかもしれない。このままでいいのか……いや、よくない。このまま離れ離れに大学生活を送れば、渋谷に彼氏が出来るのは時間の問題だと思われた。
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