ニ.逢坂透

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ニ.逢坂透

(本当イケメンとかイケジョとか大嫌い……)  そう思いながらも俺は、久しぶりに見る同級生達の浴衣姿に釘付けだった。  花火大会会場である河川敷のすぐ傍にあるコンビニの駐車場で、花火の打ち上がる一時間前に待ち合わせをしていた。既に集まっていた四人は、元々高校時代も華やかだったが、それに浴衣をプラスされたら最早、後光が差してるようにしか見えない。作戦は完全に失敗だった。 (よく考えてみれば、オシャレなこいつらが花火大会に浴衣着ないなんて無いよな……)  自分の浴衣姿を顧みて急に情けなくなる。佐藤や木村は最近買ったのか、新しそうな浴衣を恰好良く着こなしているのに、一方俺はと言うと、母親に頼んで箪笥の奥から引っ張り出して貰った父親のお古だ。樟脳(しょうのう)の匂いが臭い。 (渋谷本当ゴメン……)  あとの女子二人…相澤と沢田は言わずもがな。直視するのも照れるくらいの華やかさを放っていた。はいはい、浴衣着たら無敵ですよ貴女方は。どうせいろんな男に褒められ慣れてんだろうなぁ。  もうすぐ合流するだろう渋谷がこの状況を見て、ギロリと俺を睨むだろうことを想像すると、今すぐ帰りたくなった。先日の電話で「四人と見劣りする俺達が対抗するには『浴衣』しかない!」と、熱弁を振るったのは俺の方なのだ。  なのにまさか、四人共浴衣を着て来るとは…… 「もしかしてあれ……渋谷さんじゃない?」  佐藤が目を細めてそう言うと、沢田が「お~い! こっちこっち~!」と大きく手を振って呼んだ。申し訳無さでなかなか振り向けなかったが、意を決して恐る恐る振り返ると…… (え……これがあの渋谷?)  沢田にハイタッチをしながら合流した渋谷は、ニコニコしながら卒業以来の同級生達と再会を祝っていた。浴衣姿だからなのか、他の四人と遜色劣らない……いや寧ろ、他の四人より少し輝いて見えるのは何故だろう。浴衣を着ただけで女ってこんなに変わるものなのか? それとも高校時代は短かった髪を伸ばして、アップにしているからだろうか…… 「渋谷さん、可愛いじゃん」  俺の心を見透かしたかのように、木村が臆することなくそう言った。「それじゃうちらが全然可愛く無いみたいじゃん! 酷いー」と、沢田は両頬を膨らませる。 「そうじゃなくてだな……お前は俺が改めて言わなくてもいろんな奴に言われてんだろうが、つまり俺が言いたいのはだなー」  木村の言いたいことはわかる。これはギャップという奴だ。普段から大人っぽく綺麗めな沢田や、誰が見ても可愛いらしい相澤に比べて、渋谷は元々普通過ぎるので、それがかえって浴衣と髪型により急に大人っぽく見えて……  そんな分析をしていたら、急に渋谷が俺の傍へ寄って来て、浴衣の袖を引っ張りながら耳元で、 「ちょっと逢坂、結局皆浴衣着てるじゃん。どうすんのよこれ!」 と小声で文句を言ってきた。予想できた反応ではあったけど、今の俺はそれどころではない。お願いだからそれ以上近づくな、心臓がヤバい… 「な、何とかするから……俺に任せろ」  それだけ言うと俺は、あまり渋谷を見ないようにして平静を装った。
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