ニ.逢坂透

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 会場である河川に近づけば近づく程、見物人の数は増えて行った。土手を上がり河川敷を見下ろすとそこは、ひしめくように人で埋め尽くされている。地元でも一、二を争う規模のせいか、周辺地域からも根こそぎ人口が集まってきているかのようだ。  なかなか動かない会場への行列に耐えながらも、やっとの思いで観覧席へ辿り着くと、木村が「何か飯買ってくるか?」と提案した。 「皆の分買って来ようか? 何がいい?」  俺がそう言うと、「たこ焼き」「焼きそば」「イカ焼き」だのと思い思いのリクエストが上がった。じゃあと土手へ向おうとすると、渋谷が「待って!」と俺を呼び止め、荷物持ちだと言って付いて来た。それを聞くなり佐藤が「じゃあ俺も行くよ」と言い出したが、 「いやいい。俺、渋谷に奢らなきゃなんないから」 と、何となく佐藤の申し出を断っていた。その後ろで木村達が、 「奢らなきゃって何?」 「今日渋谷を無理やり誘ったからじゃねーの?」 「そんなこと言って逢坂君、実は渋谷さんと二人きりになりたかっただけだったりして~♪」 と茶化すのが……全部聞こえてんだよ、お前ら。  屋台は予想以上に人がごった返していて、焼きそば一つ買うのにも苦労した。この後イカだのタコだのを買っている間に花火大会が始まり、席へ戻る頃には終わってしまうのではないかとさえ思えた。  その予想は半分当たっていて、たこ焼きの行列に並んでる間に花火の打ち上がる音が聞こえ始めていた。俺としては正直花火なんてどうでも良かったが、 「花火……始まっちゃったね」 と言う渋谷の顔があまりにも残念そうだったので、俺は彼女の腕を掴んで、たこ焼きの列から離脱した。 「どこ行くの?」 「いいとこ」 「これ皆のとこ持ってかなくていいの?」 「どうせ全部買う頃には花火終わってるだろ……後で合流した時でいいよ」  そう言って俺達は、皆のいる河川敷を背にどんどん会場から遠ざかっていった。
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