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(そうだ、電話)
連絡を取ろうとスマホを取り出すが、電源が入らない。
(こまったな、出口もあたりをつけとかないといけないのに)
この街はずっといられるわけではない。日が昇る前に出口から元いた街に戻らなければならないのだ。
中間は遠洞の言っていたことを思い出す。
(出口はね、街の中に鏡があるんだって。ちゃんと人が映る鏡、そこから出るの。どこにあるかって?街のどこか。特定の場所ではないけどでもすぐにわかるから大丈夫なんだって)
(もっとちゃんと聞いておけばよかったな)
仕方なく人型の通行人に声をかけて回るが、当たり前のように無視された。そうしているうちに人波に押し流され、どんどん中心街から離れてしまった。
百鬼夜行のような雑踏をようやく抜けると少し開けた場所に出た。
(あれ、見覚えあるな)
手前の商業施設はいつだったかテレビで見たVRが体験できるという商業施設に似ている。大きめの施設の真ん中に入口があり、その横に現実なら宣伝用のムービーを映すスクリーンから半透明の人型がわき出し、プロレスを始めたそれらを化け物たちが囲んで楽しそうに見物していた。
(入りたくねぇな。鏡もなさそうだし)
見回すと細い車道をはさんで反対側が食事処や、カラオケ屋、奥には大きな映画館などある。
(さて、どうするか・・・)
鏡がありそうなのは映画館だが、何が起きるのかわからない夢の街で閉鎖的な場所には入りたくなかった。
「何かお困りですか?」
真後ろから人間の声がした。中間は反射的に振り返る。
「よければお手伝いしますよ」
そこには高級そうなコートに身を包んだ紳士、のような鳥人間がいた。
具体的に言えば頭が鳥、体が人間なのである。高い背丈に、大きな瞳、ここまでの描写だけならただの美形だが、今回は大きくて立派なくちばしにきっちり整ったグレーの毛並みに、チャームポイントは頭にちょこんと乗った毛色とおそろいの中折れ帽子と続く。
瞳のやさしいハシビロコウと言えばわかりやすいだろうか。
くちばしの分1歩下がった場所に立っている彼は中間の返答を黙って待っている。
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