裏路地の奥は夢の中

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「ちょっと待って!本当にここなの?元からある通用口とかじゃないよね!?」 「大丈夫だよ。ほら、これ見て証拠写真」  遠洞が自信満々にスマホ画面を突き付ける。  そこには薄暗い路地の突き当たりが映っていた。ただひとつ違うのはちょうど目の前の大穴と同じ位置にだいぶ汚れた大鏡がはまっているところだ。  念のため中間は周りをぐるりと見まわす。画像と現在二人のいる場所は差異がないように見える。遠洞に写真を撮った時間を見せてもらったら朝の7時30分だった。 「ねっ、すごくない!?ほんとっぽいよね」  興奮する遠洞とは対照的に中間の顔色は少し青い。  遠洞は本物だと信じ込んでいるようだが、中間はやっぱり不信感のほうが強かった。法螺話だと思っていた存在が当然のように目の前に現れた衝撃が大きすぎたこともあるし、なにより彼はその穴に恐怖を感じたのだ。  夢の街の入口というからには、気乗りしない自分でも見た瞬間に心躍るようななにかがあると思っていたのに、実際は得体のしれない不安に心がすくみ、まるでなにかの気配がするのに何がいるかはわからない井戸の底を覗き込むような、そんな感覚に襲われていた。 「・・・ねぇ、遠洞さん」 「早く降りよう!」  遠洞に手を取られた中間は反抗する間もなく穴の中に引きずり込まれる。  階段は二人並んで降りられるほど幅がなかった。 なので必然的に遠洞に中間が引っ張られる形で進むことになる。普通は先頭の人間が後ろの人間に気を配りながら降りるものだが、気が昂った遠洞は早馬が駆けるが如きスピードで階段を駆け下りるので、中間はそれに合わせて前のめりでくっついていくしかなく、もつれそうになる足に全神経を集中させて転ばないように走るのが精いっぱいだった。  おかげで結構長い階段も体感としては一瞬で降りられた。しかし、ほくほく顔の遠洞の対して中間は冷や汗だらけで視線を落としていた。 (・・・怖かった)  もちろんホラー的な意味ではない。  額の汗をぬぐって中間が顔を上げると暗がりの中で遠洞がきょろついていた。  何か見えないかと彼女の後ろから懐中電灯を構えて、 「あれ、ついてない?」 (電源切っちゃたか?)  そう思って懐中電灯の電源ボタンを押すが反応がない。冷や汗だらけの背中が冷める。  カチ、カチ、カチ、何度押してもだめだった。
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