なんぴとも 意思をかわせぬ 血の契り 

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なんぴとも 意思をかわせぬ 血の契り 

 車の暗がりの中に陽の光が差し込んだ。  碧緒には何が起こっているのか良く分からなかった。  一度しか停まらないと聞かされていた車が何度も停まる。外は見えず、聞こえずのため、状況がさっぱり分からない。しかし、予想外のことが起こっているらしいことは感じていた。  あまりに車が進んでは停まってを繰り返していたので身を伏せていた碧緒は、初め、車の屋根が切り落とされたことに気づかなかった。 「足垂 碧緒姫と御見受けいたします」  声を掛けられて顔を上げると、ほっとした表情の男が屋根のない箱の淵に立ってこちらを見下ろしていた。それがなんと、本家の妖滅部隊、第二部隊が隊長、角 銀竜であったのである。あまりに馴染のない人物だったので、碧緒は言葉もなかった。  なぜ、この方が? 碧緒の中で疑問が湧く。 「当主の命により、貴女様をお助けに上がりました」 「!? ……とっ」  きゅっと碧緒を括っている紙が首を絞め上げた。碧緒は思わず眉を寄せて首に手を添えた。  気づいた銀竜は手早く刀で碧緒を括っていた紙を切った。 「あ……」  碧緒を苦しめていた紙が、ぱさり、と力なく落ちる。 「手足だけでなく、首にまで縛りの呪いとは、なんとむごい……。さぁ、お手を。こんなところで貴重な生命を無駄にしてはいけない」  ぎゅっと太い眉を寄せた銀竜が手を差し伸べてくる。碧緒は、ごつい、豆だらけの手を見つめて考えた。  考えたのはほんの一瞬だった。  応えて手を、差し伸べる……。  しかし、碧緒の手は銀竜の手を取ろうかというところで止まってしまった。 「!?」  白装束の袂が重くて、動かなかったのである。たった、それだけの、一秒にも満たない時間だった。 「いけませんよ、碧緒。貴女には死命があります」  ぞっとするような、冷たい女の声がした。 「む!?」  箱に乗っていた銀竜が弾きだされた。結界が異物を吐き出す時によく見る光景だった。 「銀竜様っ」  碧緒は立ち上がろうとしたが出来なかった。右袖が重いのだ。
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