152人が本棚に入れています
本棚に追加
/240ページ
「お帰り下さいませ。銀竜様、くすべ様」
青梅が車の横に立った。そうしてまた紙札に何かを書き始める。
「銀! その女止めないと!!」
「しかし、女人は……」
「女だからとか言ってる場合じゃない!! 俺が代わ……!」
くすべはまごつく銀竜に変わって対峙しようと歩を進めたが、くん、と腕が引っ張られて動けなかった。
くすべは腕を引っ張るものを目で追った。その先には、くすべが巻いた紙の帯を掴んでいる、竜樹の姿があった。
首の後ろがざわりとした。
「あんた、呑み込まれたはずじゃ……!」
見回してもあの大蛇の姿がない。封印したとなるとそれ相応の呪が必要になるが、その様子もなかった。
「まさか! 祓ったのか……!」
跡形もなく消えた大蛇。封印するならば、それなりの術式が必要である。それがなかったということは、つまり、契約を破棄したうえで祓ったということになる。
「あれだけの式を簡単に……」
切り捨てた。
ぞっとした。
目的を達成するためには、己の式も……滅多にない強力な式でも、いとも簡単に切り捨ててしまうのである。
「……あの女の父親ってわけね」
くすべの顔が引きつる。
これでは交代することができない。青梅の相手は銀竜に務めてもらうしかなかった。
正直、相性が悪い。
「銀! 臣の命令、忘れたのか!」
叱咤するために呼びかける。銀竜はまだ納得のいかない顔をしていたが、ようやく刀を抜こうとした。
しかし、もう、遅かった。
青梅が紙札を車に貼った。
「碧緒、務めを果たしなさい」
驚きと悲しみと恐怖。様々な感情が入り混じった、複雑な顔をして見つめる碧緒に声をかける。
最初のコメントを投稿しよう!