なんぴとも 意思をかわせぬ 血の契り 

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「お帰り下さいませ。銀竜様、くすべ様」  青梅が車の横に立った。そうしてまた紙札に何かを書き始める。 「銀! その女止めないと!!」 「しかし、女人は……」 「女だからとか言ってる場合じゃない!! 俺が代わ……!」  くすべはまごつく銀竜に変わって対峙しようと歩を進めたが、くん、と腕が引っ張られて動けなかった。  くすべは腕を引っ張るものを目で追った。その先には、くすべが巻いた紙の帯を掴んでいる、竜樹の姿があった。  首の後ろがざわりとした。 「あんた、呑み込まれたはずじゃ……!」  見回してもあの大蛇の姿がない。封印したとなるとそれ相応の呪が必要になるが、その様子もなかった。 「まさか! 祓ったのか……!」  跡形もなく消えた大蛇。封印するならば、それなりの術式が必要である。それがなかったということは、つまり、契約を破棄したうえで祓ったということになる。 「あれだけの式を簡単に……」  切り捨てた。  ぞっとした。  目的を達成するためには、己の式も……滅多にない強力な式でも、いとも簡単に切り捨ててしまうのである。 「……あの女の父親ってわけね」  くすべの顔が引きつる。  これでは交代することができない。青梅の相手は銀竜に務めてもらうしかなかった。  正直、相性が悪い。 「銀! 臣の命令、忘れたのか!」  叱咤するために呼びかける。銀竜はまだ納得のいかない顔をしていたが、ようやく刀を抜こうとした。  しかし、もう、遅かった。  青梅が紙札を車に貼った。 「碧緒、務めを果たしなさい」  驚きと悲しみと恐怖。様々な感情が入り混じった、複雑な顔をして見つめる碧緒に声をかける。
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