なんぴとも 意思をかわせぬ 血の契り 

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 青梅が手を離した瞬間、車が急発進した。 「きゃぁっ!」  大きく車体を揺らし、凄まじい速さで車は一直線に谷へ向かっていく。碧緒は乱暴に揺れ動かされることに耐えられず、身を低くして箱の縁を掴んだ。 「最悪!」  竜樹の拘束を解いて駆けだそうとしたくすべの足に、竜樹の呪いのかかった紙の帯が巻き付く。 「碧緒殿!」  地面を蹴ろうとした銀竜の前に、青梅が立ちはだかる。  車は大きな音を立て、凄まじい速さで谷へ走っていく。 「たま姉!!」  少女の声が碧緒を呼んだ。  ハッとして碧緒が顔を上げる。高速で過ぎ去っていく景色の中に一姫の姿があった。碧緒の口が空気を吸い込んだ。 「いち……」  ガコンッ。車が崖を越える。  碧緒の身体が車とともに宙に投げ出された。  今までガラガラとうるさかった音が止み、やってきた静寂が、瞬間、時が止まったような錯覚を起こした。 「ひめ……」  ふわりと浮いた碧緒の身体が一気に降下する。 「たま姉ー!!」  一姫が碧緒を追って崖から飛び降りようとしたのを左近が抱きかかえるようにして止めた。 「いけません、一姫様!」 「たま姉が!!」  一姫には今落ちていった碧緒しか見えていない。一姫は左近の腕の中で暴れてどうにか抜け出そうとした。 「私が行きます!」  右近が錫杖を投げ捨てて谷へ飛び込もうとしたが、身体が何かを感じ取って止まった。 バキンッ  とてつもなく大きな、何かが割れる音が頭の中で響いた。  右近左近他、くすべ、銀竜、竜樹、青梅と、同じ音を聞いた者たちが顔を上げた。 「結界が……」  くすべと 「……破られた」  青梅が呟いた。
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