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ホワイトデー
「ホワイトデーのやつな」
カレンダーに印を付け、数日前からどきどきしていたホワイトデーはその一言と小さな紙袋で終わりを告げた。
「ありがとう……」
沙織は小さな声で返した。一真はその様子の変化に気付いていないようだった。
ふた月ほど前に「付き合わねえ?」という言葉に「いいよ」と返し、お付き合いを始めた。やっと手を繋いだくらいで未だ“すき”と言葉にして伝えていなかったが、二人は恋人関係である。
恋人になる前と変わらない態度だったから、一真からのお返しは例年通りクッキーだろう。沙織は嬉しいと思うと同時に、去年みたいには素直に喜べなかった。
「一真」
呼ぶと振り向いてくれる。その瞬間が好きだ。けれど、続く言葉を沙織は飲み込んでしまった。
「手、繋ぐ?」
一真が少し首を傾けて言う。沙織の上げた視線が交じり合う。
「……うん」
手を繋ぐ帰り道。嬉しいのに、言えなかった言葉が胸をちくり、と刺す。
――バレンタインのチョコ、特別だったんだけど、一真はどう思った?
欲張りになってしまった恋心を押さえ込んで、沙織は見ない振りをした。
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