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1.薬女の始まり
野口大学入学式の日、みなとみらい駅の改札でおばあちゃんを待っていた。改札から溢れるように出てくる人並みの中におばあちゃんを見つけて手を振った。けれど、隣には聡さんがいた。
「あっ、聡さん……」
どうして? 一緒に来るなんて聞いてない。
急に心拍数が上がり、体から変な汗が溢れ出す。
何かの間違いかと思って目をこすって見たけれど、現実は変わらないし、おばあちゃんと仲良くおしゃべりしながらこちらに向かってくる姿は、どう見ても聡さんで見間違えてもいない。
ここは一旦、柱の影にでも隠れてしまおうと思ったけれど、二人は私に気づいたのか笑顔で手を振りどんどんと近づいてくる。
「実花ちゃん、お待たせ」
「ねぇ、えっちゃん」
おばあちゃんのことは『悦子』という名前から『えっちゃん』と呼んでいる。おばあちゃんと呼ぶと怒られる。年齢は七十歳だけれど、昔話に出てくるようなおばあちゃんというような見た目ではなくて、背筋は伸びているし、週三回スポーツジムに通うほどアクティブに過ごしている。見た目も中身も結構若々しい。
「なんで聡さんがいるの?」
私はおばあちゃんの服の袖をちょっと引っ張って小声で聞いた。
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