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「よ、おまたせ」
急に肩に軽い衝撃が加わる。二重の意味で肝をつぶした俺はその両肩をビクッと上方向に張り上げてしまった。
「お、遅いよ」
精一杯の強がりを込めてそう口にするも、それは自分の耳にもあまりにも弱々しいつぶやきだった。
「なんか顔赤いけど?」
「き、気のせいだよ気のせい」
「ふーん、ま、いいや。待たせちゃったお詫びにこれあげる」
そう言って彼女は俺に一つの小さな箱を差し出してくる。
誰がどう見ても、それはチョコレートである。さっきの写真を見るかぎり手作りなのかもしれないけれど、そこはあまり深く考えないようにした。
「私のキモチ」
面白がっているようにも、少し照れているようにも見えるその顔を俺は直視することはできなかった。
「あ、ありがとう」
俺は手の震えをなんとか抑えながらその箱を受け取る。すると、彼女は半ば無理やり俺の右腕に自分の左腕を絡ませてきた。
「それじゃあ行こっか。吹石英二くん♪」
「なんでフルネームなんだよ…」
彼女はどうしてこうも俺をからかってくるのか。その謎を解き明かすのはもう少し後になってからだろう。
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