世界は美味しいでできている

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 そしてまた、彼女のお眼鏡にかなった記憶が発見される。きらきらと瞳を輝かせた彼女が、勢い良く目的の地点まで駆け出して行った。僕はゆっくりとした歩調を保ちながらその後ろに続き、またあれも美味しいと述べて笑うのだろうかと予想する。僕の専らの悩みは、彼女のその判断基準にあった。彼女は調べるために食したものを、いつもあの幸せそうな呑気な笑顔をもって、「美味しい」と告げるのだ。最近の僕は全くもって“否”の印を付けていない。こんなんでは、仕事をサボっていると、上司から怒られないだろうかと、実は少しだけ気にしてたりする。 「ちょっと、なに、難しい顔してんの。早く来てよ」  大声で僕を呼ぶ彼女は、両腕に可愛らしいクマのぬいぐるみを抱えていた。  え、もしかして、それも食べる気か?   それはあまりにも、想像したくない絵面である。 「君はどんなものでも、本当に美味しそうに食べるよね……」 「あのね、世界は美味しいでできてるの。だって美味しくないつまらない世界なんて、この世にあるわけないじゃない!」  勇ましく響いた彼女の文言に、「ああ、なるほど」と、僕は納得したように呟いてみせた。
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