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世界は美味しいでできている
「君はどんなものでも、本当においしそうに食べるよね……」
「ふぁい?」
両頬を丸く膨らませた彼女が、きょとんとした瞳で振り返る。彼女は口に入っているものを何度か咀嚼した後、ごくりと喉を鳴らして満足そうに微笑んだ。
「だって、これ、本当においしいし。でも、言っておくけど、どんなものでもないよ。私はね、自分がおいしそうと思ったものしか、食べないだけなの」
「ああ、なるほど」と小さく呟いてはみたが、僕は彼女が手にしたものを、これはおいしい、これはまずいと、味わった後に取捨選択した様子を、今まで一度だって見たことがない。掴んだものへ躊躇もなくかぶり付いて嬉しそうに頬張り、こちらが気付いた時にはすでに完食しているというのが、僕がよく目にする光景だった。
「……まだ何か、言いたそうね」
「いや、まさか。君の幸福そうな顔を眺められて、僕はつくづく幸せな奴だなぁと思っただけだよ」
僕の何気ないセリフに機嫌を良くしたのか、彼女は柔らかく緩んだ満面な笑みを浮かべた。両手で大事そうに抱えていたものを、もう一口、さらにもう一口と食べ続け、見事に平らげる。
「あーー、食った、食ったぁーー!」
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