世界は美味しいでできている

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 眩しい光が降り注ぐ天を仰いだ彼女が、ぽんっとお腹の中心に手を置いた。僕は提げていた鞄から分厚い帳面を取り出すと、ぱらぱらとページを捲りペンを構える。 「それで、感想は?」 「んーっとね、ちょっとしょっぱい涙の味!」 「……ふむふむ」 「そんでもって、お腹の中がほわほわもする優しい味!」 「つまり、総合的に言うと……?」 「この記憶、とっても美味しかった!」  彼女の高らかな宣言の後、僕は軽く肩を竦める。開いたページに記載された顔写真付きのデーターを確認すると、そこには写真に写る人物の、母親との想い出が書き綴られていた。どうやら彼女が食べたホットドッグの形をした記憶は、その人物が幼い頃に病気で亡くなった母親と、初めて一緒に買って食べた、切なくも感慨深い大切な記憶らしい。僕は彼女の感想は的を得ていたのだなと判断して、一番下に設けられた四角い空欄へ○印を付けた。 「……君と組んでから、とても仕事が楽になったよ」 「うふふ。そうでしょ。私ってば優秀だもの」  僕の方を振り返った彼女が無邪気に笑う。後ろ向きのまま楽しそうなステップを踏んで、きょろきょろと周囲を見渡した。     
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